石材業界には、一般社会ではあまり使われなくなった独自の単位系が今も色濃く残っています。
お墓の図面や見積書に記載される「尺(しゃく)」「寸(すん)」「切(さい)」といった単位は、単なる慣習ではなく、建築基準法以前の伝統工法に基づいた合理的な設計思想を反映しています。
本ページでは、一級石材施工技能士としての実務経験に基づき、これらの伝統単位の意味、メートル法への正確な換算方法、そして実際の現場でどのように重量や体積を算出しているのか、専門的な視点から解説します。
1. なぜ石材業界では独自の単位(尺貫法)が使われるのか
建築や石材の分野で「尺貫法(しゃっかんほう)」が根強く残っている背景には、日本の歴史的・文化的背景があります。
法的背景と慣習の併存
日本では、1951年(昭和26年)の計量法改正により、1959年以降、取引や証明における尺貫法の使用は原則禁止され、メートル法への移行が義務付けられました。しかし、伝統的な日本建築や墓石の設計モジュールは「3尺(半間)」「6尺(一間)」を基準に発展してきたため、現場での施工指示や設計思考においては、現在も尺貫法が常用されています。
参考:計量法における尺貫法の扱い
取引・証明への使用は禁止されていますが、文化財の修復や伝統的な製造現場などでの慣習的な使用は実質的に容認されています。石材店においても、お客様への見積書には「メートル(ミリ)」を併記しつつ、設計のベースには「尺・寸」を用いることが一般的です。
2. 基本単位の定義と正確な換算表
石材実務において最も頻繁に使用される長さの単位は「尺(しゃく)」と「寸(すん)」、体積の単位は「切(さい)」と「石(こく)」です。
長さの単位:尺・寸・分
1891年(明治24年)の度量衡法に基づき、1尺は「10/33メートル」と定義されています。これを小数で表すと循環小数になりますが、実務上は以下の数値で換算します。
| 単位 | メートル法換算(厳密) | 実務上の目安 |
|---|---|---|
| 1尺(いっしゃく) | 約30.303cm | 約30.3cm |
| 1寸(いっすん) | 約3.0303cm(1/10尺) | 約3cm |
| 1分(いちぶ) | 約0.30303cm(1/100尺) | 約3mm |
注意点として、設計図面で「1尺」とある場合、現場では303mmとして扱いますが、複数の石を組み合わせる場合、目地(石と石の隙間)の厚みを考慮する必要があります。石材加工の変遷のページでも触れていますが、加工精度が向上した現代においては、ミリ単位の誤差も許されないため、最終的にはCADによるミリ換算で施工図を作成します。
体積の単位:切(さい)・石(こく)
石材の取引や運搬コストの算出に使われるのが、体積(容積)を表す単位です。これは「1尺立方(1尺×1尺×1尺)」を基準とします。
- 1切(さい):1尺×1尺×1尺の立方体。約0.0278立方メートル(約27.8リットル)。
- 1石(こく):10切分の体積。約0.278立方メートル。
※米の計量で使われる「一石(約150kg・約180リットル)」とは定義が異なるため注意が必要です。石材業界での「石(こく)」はあくまで材積の単位です。
3. 【実務解説】石材の重量計算ロジック
お墓の施工において最も重要なのが「重量計算」です。クレーンの吊り上げ能力、トラックの積載制限、そして基礎工事の強度設計に関わるため、正確な計算が求められます。
重量は「体積(㎥)× 石の比重(密度)」で算出します。
石種による比重(密度)の違い
石材の重さは種類によって異なります。墓石に最も多く使われる花崗岩(御影石)や、安山岩、斑レイ岩などの一般的な比重は以下の通りです。
| 石材の種類 | 比重(t/㎥) | 1切(さい)あたりの重量 |
|---|---|---|
| 白御影石(花崗岩) | 約2.6〜2.7 | 約72kg〜75kg |
| 黒御影石(斑レイ岩等) | 約2.8〜3.0 | 約78kg〜83kg |
| 安山岩(日本の銘石等) | 約2.5〜2.6 | 約69kg〜72kg |
実務上の概算では、安全率を見込んで「1切=約75kg〜80kg」「1石=約750kg〜800kg」として計算することが一般的です。
詳しくは岩石とは?のページで石の性質について解説しています。
計算シミュレーション:一般的な和型墓石の場合
例えば、9寸角(幅約27cm)の和型石塔の「竿石(一番上の石)」の重量を計算してみます。
- 寸法:幅0.9尺 × 奥行0.9尺 × 高さ2.5尺(仮定)
- 体積計算(切換算):0.9 × 0.9 × 2.5 = 2.025切
- 重量計算:2.025切 × 75kg(比重2.7の場合) = 約152kg
竿石ひとつで大人2人分以上の重さになります。石塔全体(竿石・上台・中台・芝台)では1トンを超えることも珍しくありません。この莫大な重量を支えるために、地盤調査と強固な基礎工事が不可欠となります。
4. 群馬県北中西毛地域における施工上の注意点
高崎市、前橋市、渋川市、吉岡町などの群馬県北中西毛地域で施工を行う際、重量計算は以下の点において特に重要です。
地盤特性と基礎設計
この地域は、関東ローム層(赤土)が広がる場所や、利根川水系の砂礫層など、場所によって地盤の強度が大きく異なります。
1トン以上の墓石を設置する場合、単に土を固めるだけでなく、鉄筋コンクリートによるベタ基礎施工が必須となります。特に水分を含みやすい赤土の地盤では、凍結深度(冬場に地面が凍る深さ)を考慮した基礎の厚み計算が求められます。
搬入経路とクレーン選定
山間部の墓地や、入り組んだ旧来の墓地では、大型クレーンが入らないケースがあります。その場合、小型運搬車(カニクレーン等)を使用しますが、その際も「石材1部材あたりの重量」が機械の定格荷重を超えないか、厳密な計算が必要です。
5. まとめ:正確な単位理解が安全な施工の第一歩
石材の寸法単位について、要点をまとめます。
- 尺・寸・切は現役の単位:現場の会話や設計思想のベースとして機能していますが、公式文書ではメートル法に換算します。
- 1尺は約30.3cm:30cm定規より少し長い感覚です。
- 重量計算の基礎は「切(さい)」:1切(30cm立方)で約75kg〜80kgという重さを認識しておくことが重要です。
- 石種による比重差:黒御影石は白御影石より1割ほど重い傾向があります。
長沼石材店では、伝統的な尺貫法の感覚を継承しつつ、最新のCADシステムを用いたミリ単位の設計と、厳密な構造計算に基づいた施工を行っています。
「自分の家の墓地の広さは何坪(何㎡)なのか?」「古いお墓の石の重さはどれくらいか?」といった疑問がございましたら、お気軽にご相談ください。お墓の一坪とは?のページでも、面積の単位について詳しく解説しています。
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