東日本大震災で見た「石塔の回転」現象|群馬の石工が語るお墓の耐震対策

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六月に入ると、群馬の空はどんどん蒸し暑くなってきます。梅雨の晴れ間に、もう真夏の匂いがする日もありますよね。そしてこの時期になると、決まって増えてくるご相談があります。

「豪雨でお墓が崩れないか心配で……」

今年もすでに何件かいただきました。
心配されているお気持ち、よくわかります。榛名山や赤城山の裾野に傾斜地の墓地が多い群馬では、土砂崩れの不安は決して他人事ではありませんから。

今回は、私が現場で実際に経験してきたことをもとに、地震や豪雨に対してお墓をどう守るか、できるだけ率直にお話しします。少し長くなりますが、お付き合いください。

群馬県の傾斜地に建つ墓地と土砂災害リスク

傾斜地に建つ墓地の様子

群馬の地盤は「掘ってみて初めてわかる」

高崎・前橋の周辺は、一見すると整った土地に見えます。でも実際に掘ってみると、粘土質の層が出てくることが少なくありません。

これが、なかなか厄介なんです。

冬に赤城おろしが吹き抜けるころ、地面はカチカチに乾いています。「ここは固くていい地盤だな」と感じる。ところが、夏の大雨のあとに同じ場所を掘ると、まるで別物のようにぬかるんでいる。スコップを入れた瞬間の「ズブッ」という感触が、全然違うんですよ。現場に何十年と立っていると、この地盤の顔の変わり方を体で覚えるようになります。

以前、榛名山を望む霊園での施工中に、豪雨のあと土が動いて外柵ごと数センチずれてしまった現場を目にしたことがありました。あのときは正直、冷や汗が出ました。お施主様に報告しながら「もっと基礎の段階でしっかり確認できていれば」と、ひどく自分を責めたのをよく覚えています。

その経験から、私は今、石塔が出来るまでの流れの中でも、地盤の確認を最優先にするようにしています。見た目の立派さより、まず足元から——というのが、あのとき学んだことです。

土砂崩れが起きやすい現場の条件

現場の経験から言うと、次の条件が重なっているときは注意が必要です。

  • 傾斜地にある墓所(背面に山や盛土がある)
  • 排水が悪く、雨水が溜まりやすい粘土質の地盤
  • 昔の施工で基礎が浅い、あるいは基礎自体がない
  • 外柵の隙間から土が少しずつ流れ出している

古い墓地ほど「基礎」という概念で施工されていないことがあります。石を据えて、周りを土で固めただけ——というケースも群馬の現場では珍しくありません。それ自体が必ずしも悪いわけではないのですが、今の気候の変化、特にゲリラ豪雨の激しさには対応しきれていないことがある。昔の施工には昔の常識があって、それは尊重したい。ただ、現代の雨量には現代の備えが要るんです。

東日本大震災で見た「石塔の回転現象」

2011年3月11日の東日本大震災のあと、私は何日かかけていくつかの墓地を見て回りました。

私が回った群馬県内の墓地では、幸いにも完全に倒れている墓石はほとんどなかったように思います。でも、それよりも強く印象に残ったのが——「倒れていないのに、ズレている石塔」でした。

最初は何が起きているのかわからなかった。よく目を凝らして見ると、石塔がわずかに回転している。台石の上の石塔の向きが、もともとの方角からほんの数度だけ動いているんです。ハンマーで叩いてもいないのに、地震の横揺れだけで石が回ってしまった。

この現象を初めて目にしたとき、背筋がゾッとしました。

石塔が完全に倒れていないから「大丈夫」かというと、まったくそうではありません。接合部に無理な力が入ったまま、ひずんだ状態で立っているわけです。次の揺れが来たとき、そのひずみが一気に崩れ落ちるリスクがある。「倒れなければいい」という基準では、実は不十分なんです。

「地震のあと、お墓は倒れていないから問題ないと思っていた」——そうおっしゃるお客様は少なくありません。でも石工の目で見ると、倒れる前の段階で何かが起きていることがある。だからこそ、大きな地震のあとは一度見せていただきたいんです。

この経験は、仕事への向き合い方をだいぶ変えました。それ以来、お墓の地震対策については施工前のお客様にも積極的にお話しするようにしています。また、すでに建っているお墓でも「揺れを経験したあとは点検を」とお伝えするようになりました。具体的な点検の仕方は、地震・凍結・経年劣化でお墓が傾く理由と点検の仕方にまとめていますので、気になる方はぜひご覧ください。

今の耐震施工でできること

現在は、いくつかの方法を組み合わせて施工しています。

  • 石同士をしっかり固定する耐震接着剤の使用
  • 弾性接着剤との併用(「硬い接着」と「柔らかい接着」を組み合わせることで、揺れをいなす)
  • 基礎コンクリートの強化と鉄筋の適切な配置
  • 水抜き・排水ルートの設計見直し

石塔の主な構成でも触れていますが、お墓はパーツが積み重なって成り立っています。その接合部ひとつひとつに手を抜かないこと——それが、10年後・20年後の安心につながっています。

こういう耐震施工は、正直、手間がかかります。時間もかかります。でも、施工が終わってお客様に「これで安心できますね」とホッとした表情をしていただけると、やってよかったと毎回思います。その表情が、次の仕事の原動力です。

豪雨に強いお墓は「水の逃がし方」で決まる

地震対策と同じくらい——いや、件数でいえばそれ以上に相談が多いのが、雨水への備えです。

水が溜まると、地盤は一気に弱くなります。群馬の粘土質の土では特に顕著で、排水の設計が甘い墓所は大雨のたびに少しずつ土が動いている可能性があります。じわじわと、静かに。目には見えないまま。

私が現場で意識しているのは、主にこの4点です。

  • 墓所全体に適切な勾配をつけて、雨水が自然に流れる方向をつくる
  • 基礎の下に砕石層を設けて、水が抜ける経路を確保する
  • 外柵の根元に水抜き穴を設ける
  • 外柵そのものを土留めとして機能させる設計にする

これらは完成してしまうと、外からはまったく見えません。「何が変わったの?」と言われることもあります(笑)。でも、見えない部分の仕事が、10年後・20年後の差になるんです。

実際の施工の様子は墓地改修施工例でもご紹介していますので、参考にしていただければ嬉しいです。

「水が溜まっている」は早めのサインです

お墓参りのとき、こんなことに気づいたことはありませんか。

  • 花立の中に雨水がいつまでも残っている
  • 石の根元に苔が異常に多い
  • 踏んだとき土が柔らかい場所がある
  • 外柵の内側に土が押し出されたような跡がある

これらは排水がうまくいっていないサインかもしれません。大きな問題にはなっていなくても、早めに確認しておくことをおすすめします。

雨上がり墓所

雨上がり墓所

「あとで直す」は、思っているより大変です

一度傾いたり、崩れたりしたお墓を元に戻すのは、最初から丁寧に作るよりもずっと手間がかかります。石をすべて外して、基礎からやり直す——というケースも珍しくありません。

お墓の費用のページでも触れていますが、後からの補修は新規施工よりも割高になることが多いです。費用だけでなく、施工期間中はお参りできない期間も生まれます。

「今のところ大丈夫そうだから、様子を見よう」という気持ち、よくわかります。でも傾きや歪みは、目に見えにくいところから始まっていることが多い。石工として正直に言うと、気になることがあればまず一度見せていただきたいんです。診断だけなら費用はかかりません。

無理に工事をおすすめするつもりはありません。ただ、「見てもらったら安心した」という方も多くいらっしゃいますので、気軽に声をかけてみてください。

まとめ|見えない基礎に、魂を込める仕事です

お墓は、どうしても見た目に目がいきがちです。石の色、形、文字の彫り方——もちろん、それも大切です。

でも石工の立場から言うと、本当に大事なのはその下にあるものです。地盤・基礎・排水。この三つがしっかりしているかどうか。

冬の冷え込んだ日に、据え付けたばかりの石にそっと手を置くと、ひんやりとした感触がします。その瞬間に「これで長く守れるな」という静かな安心感が来る。この感触が、私にとって一番ほっとする時間です。

今のお墓に少しでも不安があるなら、大げさに考えなくていいです。まず一度、声をかけてみてください。

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