こんにちは。高崎市金古町で創業百余年、長沼石材店5代目の長沼功一です。
4月も後半に差し掛かり、赤城おろしも一段落して、高崎の朝が穏やかになってきましたね。春のお彼岸が終わって久しぶりにお墓参りをされた方の中に、「なんだか石塔が傾いていないかな」「外柵の角が開いてきている気がする」と感じて、少し不安な気持ちを抱えてお帰りになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そういうお声、春になると本当に増えるんですよ。「傾いているようで、お参りするたびに気になって…」というご連絡をいただくたびに、もっと早く伝えておけばよかったな、と感じています。
今日は、墓石が傾いたりズレたりする原因と、お参りのついでにご自身でできる点検の流れを、できるだけ平たい言葉でお伝えしたいと思います。最後までお付き合いください。
なぜお墓は傾いたりズレたりするのか
石のお墓というのは、一度建てたらずっとそのままでいてくれるように見えます。でも実際には、土の上に建っている以上、少しずつ動き続けているんです。私が父の仕事を手伝い始めたころ、「石ってこんなに動くのか」と驚いた記憶があります。何十キロ、何百キロという重量の石が、気づかないうちにじわじわとずれていく。石屋の仕事を長くやっていると、それが自然なことだとわかってくるのですが、知らないうちは「なんで?」となりますよね。
傾きやズレの原因は、私の経験では大きく四つに整理できます。「地盤の動き」「氷による凍上」「木の根の侵食」「目地の経年劣化と僅かなズレの蓄積」です。これらが単独で起きることもありますが、たいていは二つ三つが重なって、じわじわと影響が出てきます。
① 地盤がじわじわ沈む
お墓の下の土は、雨水と石の重さを何十年も受け続けます。特に造成した区画や、もともと締まりの弱い土質の場所では、少しずつ地盤が沈んでいきます。「不陸(ふりく)」という言葉をご存じでしょうか。水平・垂直が出ていない状態のことを、私たち石屋はそう呼んでいます。地盤に不陸が生じると、石塔は重量がありますから、わずかな傾斜でも少しずつ重心が移動して、ある時点から見た目にもはっきりわかるようになってくるんですね。
高崎市内でも、榛東村や吉岡町の高台の墓地では、傾斜地の造成で埋め戻した区画が長年経って沈んだケースをいくつも見てきました。「建ててから二十年以上何ともなかったのに」とおっしゃる方が多いのですが、その間もじわじわと動いていて、ある閾値を超えると急に目に見えるようになる、そういう感じです。畳の下に小石が一枚紛れ込んでいて、最初は気にならなくても、何年もかけて畳がへこんでくるイメージに近いかもしれません。
② 氷が石を押し広げる「凍上」という現象
これ、意外と知られていないのですが、私が現場で傾きの原因として一番多く出合うのがこれなんです。「凍上(とうじょう)」といって、土や石の隙間に入り込んだ水が凍ることで体積が膨らみ、石を押し上げたり押し広げたりする現象です。
冬の赤城おろしが吹く季節、高崎や前橋では気温がぐっと下がる夜が続きます。石と基礎の隙間、目地のひびに入り込んだ水が夜に凍り、朝に溶ける。この繰り返しがモルタルをじわじわとひび割り、石を少しずつずらしていくんです。想像してもらうと分かりやすいかと思いますが、冬の朝に道路のアスファルトが盛り上がっているのを見たことはないでしょうか。あれと同じ力がお墓にも働いているんです。
特に安中市の山沿いや渋川市の朝晩に冷え込む地区、吾妻郡周辺では、この凍上によるダメージが顕著に出やすいと感じています。高崎市中心部に比べて一段と寒暖差が大きいですから、目地の傷みが早い傾向があります。
冬場の点検については、年末のお墓掃除・点検で新年を迎える準備|冬のお墓メンテナンス完全ガイドでも季節ごとの注意点をまとめていますので、合わせてご覧いただけると参考になるかと思います。

凍上で広がった外柵の目地。細いひびでも、そこから水が入るとさらに傷みが進みます
③ 木の根が石の足元を持ち上げる
これも現場でよく目にするのですが、墓地に植えられた木や、隣接する雑木が根を伸ばして、石塔の基礎やお墓の外柵の下に入り込んでくることがあります。木の根は想像以上に力強くて、コンクリートの基礎を割ることもあるんですよ。
「隣のお墓の木が根を伸ばしてきている」というご相談は年に何件かあります。以前、前橋市内の霊園で、隣区画の大きな木の根が外柵の基礎を内側から押し広げて、角の石が大きく開いてしまったケースがありました。外から見ると「なぜこの角だけ?」という感じなのですが、地面の下で根が暴れていたわけです。
木の根とお墓の関係については、お墓の木を切って欲しいという依頼を受けることがあります|石材店が教える適切な対応と注意点という記事で詳しく書きましたので、心当たりのある方はぜひ読んでみてください。
④ 僅かなズレが時間をかけて大きくなる
少し自戒も込めて書くのですが、据え付けの精度というのは本当に大切です。芝台(一番下の石)の水平がわずかにずれていたり、モルタルの厚みが均一でなかったりすると、石の重さが一点に集中して、少しずつ傾きが進みます。
1ミリのズレが、十年で1センチになる。大げさに聞こえるかもしれませんが、私の現場経験では実感としてそういう感覚があります。水平・垂直が最初からしっかり出ていれば、重さは均等に分散されて動きにくくなる。ほんの僅かな不陸が、長い年月で倍々に影響してくるんです。
一度、先代が施工したお墓の修繕を担当したとき、父の仕事をやり直すことになって複雑な気持ちになったことがあります。でも、石と真剣に向き合えば向き合うほど、完璧な据え付けがいかに難しいか、わかってくるんですよね。だからこそ一級石材施工技能士という資格の意味があると思っています。見えない基礎のところに、どれだけ丁寧な仕事ができるか。それが十年後、二十年後の差になって出てくるんです。
目地材の劣化についても同じです。石と石をつないでいるモルタルは、紫外線・雨・温度差を何十年も受け続けると、少しずつ縮んでひびが入り、接着力が落ちてきます。石塔の主な構成を知ると、各パーツがどれだけ緊密に連携しているかが伝わるかと思います。外から見るとほんの細い線のひびでも、そこから水が入って凍る、また春に溶ける、その繰り返しで石がぐらついてくる。それが「僅かなズレの蓄積」の正体です。
お参りのついでにできる点検の流れ
では実際に、私が現場でどういう順番で確認しているかをお伝えします。専用の道具がなくても確認できる部分が多いので、ぜひ次のお参りの際に試してみてください。

目視で「なんとなくおかしい」と感じたら、水平器で確認するのが一番確実です
ステップ1:まず全体を離れて眺める
石塔の正面から3〜4メートル離れて、全体をひと眺めします。「なんとなくまっすぐじゃない気がする」という感覚は、意外と当たっているものです。次に横からも見て、石塔の各段が水平かどうか確認します。外柵(周りの囲い石)の角部分が開いてきていないかも、この段階で確認しておきます。
スマートフォンのカメラで撮影しておくと、前回のお参りとの比較ができて便利ですよ。「気のせいかな」と思っていたことも、写真で見比べると変化に気づきやすくなります。
ステップ2:近寄って目地と据え面を触って確かめる
目地に明らかなひびや隙間がないか、指でなぞって確認します。外柵の角の部分は特に開きやすいので、コーナーを指でなぞってみてください。「パカッ」と角が開いていたら、早めの対処が必要なサインです。また、石の据え面(石の下の面)と下の石の間に隙間がないかも確認します。紙一枚くらいの隙間でも、そこから雨水が入り込んで凍結するリスクがあります。
ステップ3:水の流れを見る
雨上がりに確認できれば一番ですが、苔が集中して生えている場所がないかを見ておくだけでも目安になります。苔が集まっている場所は常に湿気が多いサイン。水の逃げ道が詰まっていたり、排水の向きが悪かったりすると、基礎にじわじわとダメージが積み重なっていきます。
ステップ4:手で軽く押してみる
石塔の各段を手でそっと押してみて、ぐらつきがないか確認します。外柵の石も同様です。揺れを感じたら、目地や接合部の接着力が落ちているサインです。この状態で地震が来ると、倒壊の危険が高まります。
お墓の耐震対策については、群馬でお墓の地震対策!「倒れてから」では遅い理由とプロの耐震・免震技術で詳しく書いています。「揺れたらどうなるか」が少し気になった方は、ぜひ読んでみてください。
ご自身での確認に不安がある場合は、スマートフォンで写真を撮ってLINEで送っていただくだけでも構いません。ある程度の状況は判断できますので、お気軽にどうぞ。
傾きの程度と対処の考え方
「どのくらい傾いていたら修繕が必要ですか?」とよく聞かれます。正直に言うと、数値で一律に判断するより、「進行しているかどうか」と「接合部の状態」を合わせて見ることが大切です。
| 状態 | 目安となる対処 |
|---|---|
| 目視ではっきりわかる傾き、石塔にぐらつきがある、目地に幅のある隙間がある | 早めのご相談を。石塔は重量物ですので、倒れてからでは危険ですし費用も大きくなります |
| ごくわずかな傾き、接合部はしっかりしている、目地のひびが細い | 定期観察を続けながら、計画的に対処していく方法もあります。まずは現地確認でご相談ください |
| 傾きはないが目地にひびがある、角が少し開いてきている | 目地の打ち替えで対処できるケースが多いです。放置すると凍上で進行しやすいので早めに |
修繕の選択肢としては、「石塔の再据え付け」「目地の打ち替え」「基礎コンクリートの補強」「排水経路の改善」などがあり、症状に合わせて組み合わせます。施工事例は墓地改修施工例でもご覧いただけますし、費用の目安は高崎市・前橋市・藤岡市でお墓の修理・リフォームをお考えの方へで概要をまとめています。
地域ごとに出やすいトラブルの傾向
長年この仕事をしていると、地域によって傾向があるなと感じます。あくまで私の経験上の話ですが、参考にしていただけると幸いです。
前橋市や高崎市の平坦な場所では、排水の改善が効果的なケースが多いです。水の逃げ道をつけるだけで、基礎まわりの土の動きがぐっと落ち着くことがあります。高崎の粘土質の土壌は水はけがよくない場所もあるので、基礎をどう組むかがものを言います。
榛東村や吉岡町の高台の墓地は、風当たりが強く乾燥しやすい一方で、凍上のダメージも出やすい環境です。赤城おろしが直接当たる斜面の墓地では、目地が痩せるのが他より早い印象があります。
安中市の山際や渋川市の朝晩に冷え込む地区は、凍結融解の繰り返しが激しいので、目地と接合部のチェックを特に丁寧に行うようにしています。冬前に一度見ておくと安心です。桐生市や吾妻郡方面も、標高が上がるにつれて凍上リスクは高くなる傾向があります。
一度だけ、お客様に申し訳なかった話
少し苦い話ですが、書いておきます。
数年前、「お墓が傾いてきた」というご連絡をいただいて現場に伺ったとき、傾きの原因が排水不良と基礎まわりの土の動きだとわかりました。石塔を再据え付けして、水平も出て、お客様にも喜んでいただきました。
ところが翌春、「また少し動いてきた気がする」というご連絡が来たんです。確認に行くと、根本の排水経路の問題が残っていたことがわかりました。石塔の再据え付けだけで完結したと思い込んでいた、私のミスでした。改めて排水の改善から施工し直して、それ以来そのお墓は落ち着いています。
あの経験から、傾きの修繕は「見えている症状だけを治す」のではなく、「なぜ動いたか」の根本まで確認してから手当てする、という順番を必ず守るようにしています。遠回りに見えても、それがお客様の費用と手間を最小限にする道だと、今も思っています。
よくある質問
Q. どのくらいの傾きなら急いで対処した方がいいですか?
目視でわかるくらい傾いている、手で押したらぐらつく、石塔と台石の間に指が入るくらいの隙間がある──これらが一つでもあれば、早めにご相談ください。法要が近い場合や、お参りの方が多い通路に面している場合は特に優先度を上げて確認することをお勧めします。
Q. 自分でコーキングを詰めて直せますか?
目地の細いひびに市販のコーキング材を詰めるくらいは応急処置にはなりますが、根本の解決にはなりません。石塔の据え直しや基礎まわりの改善は、重量物の移動を伴う作業ですので、転倒・破損の危険があります。「やってみたけど悪化した」というご相談も年に何件か来ますので、気になる点があればまずご連絡ください。
Q. 点検だけでもお願いできますか?
もちろんです。「修繕するかどうかはまだわからないけど、見てほしい」で構いません。現地確認と一次点検は無料で承っております。その上で、必要があれば費用と工期のご提案をさせていただきます。
おわりに
墓石の傾きやズレは、地盤の沈下・氷による凍上・木の根の侵食・僅かなズレの蓄積が重なって起きます。群馬の厳しい冬と、赤城おろしが吹く乾燥した春は、石のお墓にとってなかなか過酷な環境です。
でも、早めに気づいて手当てをすれば、大ごとになる前に収められることがほとんどです。年に一度か二度、お参りのついでに「全体をひと眺めする」「目地を指でなぞってみる」「雨上がりに水の流れを見る」、それだけで変化に気づくきっかけになります。
何か気になることがあれば、写真一枚でも送っていただければ。難しく考えずに、気軽にご連絡ください。それでは、季節の変わり目、皆さまどうかお体ご自愛ください。
高崎・前橋エリアのお墓のことは長沼石材店へ
創業百余年、5代目の私が責任を持って対応させていただきます。
小さなお困りごとでも、まずはお話を聞かせてください。
