六月にはいりました。朝、現場へ出ると石がもうずいぶん温かくなっていて、「ああ、今年も夏が来たな」と思います。ハンマードリルを握ると、ほんの少し前まで冬の赤城おろしに冷やされていたあの石が、もう別物みたいに熱を持っている。毎年のことなんですが、なんとなく感慨があります。
そんな時季になると、お客様からよく聞かれることがあります。
「カタログで見ると似たように見えるのに、なんでこんなに値段が違うんですか?」
高崎・前橋はもちろん、榛東・吉岡・渋川・安中あたりのお客様からも、本当によくいただく質問です。正直に言うと、写真やカタログで石の本質を判断するのはかなり難しい。私自身、30年以上現場で石を扱ってきても、サンプルを実際に手に取って初めて「この石はいいな」「これはちょっとな」とわかることがあります。
この記事では、石の「色・質・産地」という三つの切り口で、現場で感じてきたことをできるだけ噛み砕いてお話しします。少し職人っぽい話も出てきますが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
「ツヤがある=良い石」は、半分正解で半分違います
最初にここだけ整理させてください。磨き上げた石はたしかにきれいです。でも、新しいうちはどんな石もある程度きれいに見えてしまうんですよ。
私が石を選ぶとき、頭に置いているのは「5年後・10年後の姿」です。
群馬の気候は、石に対してわりと厳しい環境でしてね。冬は赤城おろしが吹きつけ、夏は雷を伴う夕立がある、春は乾燥する。榛名山のふもとや赤城山の南側に広がる霊園では、その影響が特にはっきり出やすいです。
以前、前橋のお客様のところへ建立から5年ほど経って立ち寄ったことがありました。隣り合って建てられた二基のお墓を見たとき、片方だけ艶が明らかに落ちていた。ご家族に聞くと「同じ時期に建てたはずなのにおかしいね」とおっしゃっていて、確認したら石の種類が違っていた。産地も品質も、まったく別の石だったんです。あの場面は今でもよく思い出します。石は建てたときよりも数年後の姿で語られる、と改めて感じた瞬間でした。
「良い石とは?」というページでも基本的な考え方をまとめていますが、現場ではさらに細かいところを見ています。以下で順番にお話しします。
色で見えること
色ムラの少ない石は、中身が安定しています
同じ「みかげ石(花崗岩)」でも、よく見ると色の出方がずいぶん違います。全体に均一な色合いのものと、ところどころ濃淡のムラが出ているもの。
色ムラが大きい石は、内部の鉱物の分布が不均一なことが多いです。すると、風化の進み方も場所によって差が出やすくなる。全体に落ち着いた色で揃っている石は、経年変化も穏やかで、長く安定した状態を保ちやすいんですよね。
私がサンプルを確認するとき、必ず面ごとの色の均一さをチェックします。光の当たり方を変えながら、斜めからも見る。カタログ写真ではこれができません。だから「実物を見てください」と毎回お伝えしているんです。
「黒い石のほうが高級ですか?」という質問について
これ、本当によく聞かれます。答えは「半分正解で半分違います」です。
黒い石は密度が高く、磨いたときの光沢が出やすいものが多い。だから見た目の高級感という点では確かに優れているものが多いです。ただ、黒くても吸水率が高かったり、内部にムラがあったりする石はあります。色だけで品質は語れません。
逆に、白や淡いグレーの石でも、品質が安定していて長持ちするものはたくさんある。「黒い石塔と白い石塔、どっちが良いのか」という話題はそれだけで一本書けるくらいなんですが、結局は「その環境・その用途に合っているかどうか」が判断の軸になります。
質(石の中身)で見えること
吸水性の話は、群馬では特に大事です
石の吸水率、これが耐久性に直結します。地味な数字なんですが、無視できない。
群馬は冬に凍結する日があります。石の内部に水が入り込み、夜間に凍ると、水が膨張して石の組織にじわじわとダメージを与えます。これを毎年繰り返すと、表面が少しずつ荒れてくる。榛名山を望む高台の霊園や、風通しのよい墓地では特にこの影響が出やすいです。高崎市内でも、金古町周辺の粘土質の地盤では排水の具合によって、石の足元に水が溜まりやすい場所もあります。吸水率が低い石ほど、この凍害に強く、長くきれいな状態を保ちます。
少し前に、渋川方面のお客様から「石の表面がざらついてきた」とご連絡をいただいたことがありました。伺って石に触れると、たしかに表面が荒れていた。建立のときに予算を優先して石を選ばれていて、私もそのとき「もう少し吸水率の話をしておけばよかった」と、正直後悔しました。
それからは、最初の打ち合わせで必ず吸水率の話をするようにしています。地味に聞こえるんですが、10年後・20年後の姿を左右する、一番大事な話だと今は思っています。
叩いた音でわかること(ちょっと職人っぽい話です)
これは現場の感覚の話なんですが、石を指の関節で軽く叩いたときの音でも、状態の一端がわかります。
「キン」と澄んだ金属音に近い音がする石は、硬く密度が高くて締まっている状態。鈍い音がするものは、内部に微細なヒビや空隙がある場合があります。スコップで地面を叩いたとき、土の硬さが音で伝わってくるのと似たような感覚です。
正直、これは長年やっていないと判別が難しい。私も意識せず自然とやるようになったのは、ここ十数年のことです。父の代の仕事を横で見ていたころは、こんな細かいところまで気にしていませんでした。現場で石と向き合い続けるうちに、手と耳が覚えていくものなんですよね。
産地で変わる石の特徴
「国産の石と外国産の石の違い」については別ページで詳しく整理しているんですが、ここでは私の現場感覚でざっくりとお話しします。
国産の石
品質が安定していて、細やかな加工にも向いています。価格は高めになりますが、色の安定感や、職人が加工しやすい性質という点では、やはり信頼感があります。セリ矢(石を割るための道具)を叩き込んだときの手応えが素直というか、国産石は職人側にとっても読みやすい石が多いんです。
国産にどんな石があるかは、「日本国内で採れる銘石」のページで紹介しています。産地ごとにかなり個性が違いますよ。
インド産の石
ここ数十年でずいぶん普及しました。インドの黒はもはや定番といっていいでしょう。硬くて吸水率が低い石が多く、群馬の冬の寒さにも合っているものが多いです。コストと品質のバランスがよく、私も現場でよく使っています。
「インドで採れる銘石」も参考にしてみてください。色のバリエーションが意外と豊富で、驚かれるお客様も多いです。
中国産の石
一昔前は品質にばらつきがある印象でしたが、今はかなり改善されています。ただ、正直に言うと、同じ名前の石でも採石場によって品質差があるのが現実です。「同じ名前だから同じ品質」とはならないことがある。ここは仕入れ先や加工工場との長年の関係性がものを言う部分で、石屋としての経験と目利きが問われます。
「中国で採れる銘石」も合わせてご覧ください。
スウェーデン産・アフリカ産の石
スウェーデン産は、深みのある色合いが魅力です。黒みかげの中でも最高級に位置づけられる石が産出されていて、重厚感という点では群を抜いています。アフリカ産も近年よく使われるようになってきました。
数は多くないですが、個性を大切にしたいというお客様には選ばれることがあります。「ヨーロッパで採れる銘石」や「アフリカで採れる銘石」もご参考にどうぞ。
安山岩のこと、少しだけ補足します
ここまでみかげ石(花崗岩)の話が中心でしたが、群馬のお墓には「佐久石」「椚石」「白川石」といった安山岩が使われているケースもあります。
安山岩は花崗岩よりも粒子が細かく、色合いが落ち着いているのが特徴です。加工の感触も少し違っていて、職人としては「硬くて締まった石だな」と感じます。古いお墓に使われているのをよく見かけますし、地域によっては昔からなじみの深い石材でもあります。
どの石種を選ぶかは、デザインや立地環境、ご予算との兼ね合いで変わります。「この石を使いたい」という希望があれば、まずご相談ください。
石の劣化が気になりはじめたら
石の色や質の話をしていると、「うちのお墓の石は大丈夫なのか」と気になってくる方もいらっしゃいます。
建立から10年、20年経つと、石の表面が白っぽくなってきたり、艶が落ちてきたりすることがあります。「石塔が白く色褪せる3つの理由と、戻せる場合・戻せない場合」という記事で状態別の判断の仕方を書いていますので、気になる方は読んでみてください。また、「昭和のお墓を磨き直す『再研磨』という選択肢」という記事では、石を新調せずに見違えるほどきれいにできる方法についてお話ししています。「まだ捨てないで」と言いたいケースが、意外と多いんですよ。
傾きや歪みが出てきている場合は、石の種類の問題というよりも基礎や施工の問題のことが多いです。「地震・凍結・経年劣化でお墓が傾く理由と点検の仕方」も合わせてご覧ください。
私が一番大事にしていること
色・質・産地の話をしてきましたが、最後に少し別の話を。
現場で施工しているとき、ふっとお線香の香りが流れてくることがあります。近くのお墓参りの方が手を合わせていらっしゃる。そういう場面に立ち会うと、「この石は何十年もここにある。ご家族が何度もここへ来る」と強く感じます。
そのとき、「いい石を使ってよかった」とご家族に思っていただけるかどうか。ここが私の仕事の一番根っこにある部分です。石を売るというよりも、残るものを一緒に選ぶ、という感覚でいつも仕事をしています。
施工の流れについては「石塔が出来るまでの流れ」もご覧いただけます。また、「墓石に使う石材の選び方|耐久性と価格のバランスを5代目石工が本音で解説」という記事でも関連する話を書いていますので、合わせて読んでもらえると嬉しいです。
迷ったら、まず実物を見にきてください
石の良し悪しを見極めるときに気をつけていることを整理すると、
- 色の均一さを確認する(面ごとのムラをよく見る)
- 吸水率など、石の中身の性質を確かめる
- 産地ごとの特徴と、採石場・加工のばらつきを理解する
- 叩いた音や触った質感など、現物でしかわからないことを確かめる
ただ、正直に言うと、これを文章で読んでも限界があります。私自身、カタログだけで石を決めることはありません。実際に触れて、光の当たり方を変えて、場合によっては叩いて音を聞いて判断しています。
「実物を見るだけでもいいですか?」と気軽に声をかけてもらえれば、一緒に見て、わかることをお話しします。買う買わないは関係なく、「ちょっと話を聞いてみたかっただけ」でも全然かまいません。高崎・前橋はもちろん、吉岡・榛東・渋川・安中方面からもお気軽にどうぞ。
高崎・前橋エリアのお墓のことは長沼石材店へ
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